2016年2月4日木曜日

W.A.モーツァルト:ピアノソナタ13番



◎グルダ(77年、Amadeo)

グルダらしいシリアスなモーツァルト。グルダって後年ジャズに手を出したこともあって、一部からはクラシックの本流と見なされない傾向もあったそうで、グルダのモーツァルトは楽しいなどといったコメントもたまに見かけるけど、クラシックに取り組むときの彼はいつもシリアスで、真剣そのもの。決して彼の音楽は明るい楽天的な音楽ではないと思う。そしてそれはモーツァルトも同じ。彼もまた長調の曲を多く書き、短調の曲は非常に少ないけれども、長調の曲こそ短調では表現できない心の内を描き出すのに合っているのではないか。彼の作曲した長調の曲にはどこか影があるように思えてならない。グルダが描き出すモーツァルトはそういった要素がごく自然に、かつストレートに表現されていて快い。落ち着いたテンポと堅めの音色で淡々と演奏しているが、陰影に富んだ音色の微妙なニュアンスの表現や天上の美しさを思わせる弱音の高音(これはかなりの高度なペダルテクニックを要すると思われる)などグルダのエッセンスが詰まった名演。

◯ホロヴィッツ(87年、DG)

ホロヴィッツもまたこの曲を得意としていたそうで、彼の残したモーツァルトのナンバーは偏りがあって有名な8番や15番などは録音がないのに、10番と13番だけは幾種類もの演奏が残っている(ほかに11番や12番も数は少ないけど録音がある)。その13番であるが、冒頭からホロヴィッツの歌が満載で度肝を抜かれる。なんだこの歌うピアノは!!モーツァルトの古典的な音楽が、ホロヴィッツの多彩な音色のパレットによって塗り替えられ、色彩豊かに蘇っている。彼の音色パレットの豊かさには本当に脱帽するし、それを駆使した立体的な表現は、一瞬たりとも気を抜くことができない緊張感と説得力に満ち溢れている。どの瞬間にも驚きの発想が隠されていて聞いていて興味が尽きないし、これは創意工夫の宝庫であると言ってもいい。しかもそれが絶対にわざとらしくならないところが彼の最も偉大なところかもしれない。演奏はこの87年のハンブルクでのライヴの出来が一番良い。同じくDGに入れたスタジオ盤の方は少々乱暴なところもあるが、こちらは彼のやりたいことが最良の形で表現できているのでオススメ。

▲ホロヴィッツ(51年、RCA)

もう一枚ホロヴィッツいくよ。こちらは大穴盤に相応しい若いころのまだエネルギーがありあまっていたころのホロヴィッツの演奏。CDは1,2年前に発売されたカーネギーホールライヴ箱(40枚組)で手に入れた(この51年の演奏は2009年初出とのこと)。若い頃の録音ということもあって、fのところは例によってffかfffくらいに膨れ上がる箇所もあり、モーツァルトなのかラフマニノフなのかわからないような部分も出てくるが(苦笑)、彼のやりたいことは87年盤よりもこちらの方がなんの抵抗もなく表現できていて面白い。音色の変化も千変万化というよりは電光石火のごとく目まぐるしく姿を変えてゆくが、その音色パレットの豊かさは若い当時からずば抜けている。ヒストリックリターン後のほうがより深みのあるニュアンスの表現が目立つようになるが、このころのホロヴィッツも爆音一筋の爆演野郎ではなかったことのなによりの証明で、彼の最大の魅力は弱音にありだと痛感した次第。


CD NAME ZUMI

TEXTZUMI

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