2016年2月8日月曜日

L.B.ベートーヴェン:ピアノソナタ17番「テンペスト」



◎グルダ(67年、アマデオ)

グルダのベートーヴェン全集からの一枚。デッカ時代の旧盤がバラでよく再発売されるけど、このアマデオの新盤のほうがはるかに出来が良く、とても面白い。演奏は快速テンポでドラマチック。快速テンポと言ってもテクニカルで一直線な演奏ではなく、緩めるところは緩め、押さえるところはばっちり押さえている演奏で、考え抜かれた自然なアゴーギクも相まって、とにかくどの瞬間もビシッとキマッてる。一聴してその強い推進力と、他の演奏を寄せ付けない説得力に満ちた表現に圧倒されてしまう。このベートーヴェン全集におけるグルダの自信というのは半端なかったんだろうなということをうかがわせる名演ですよ、これは。そしてその純度の高さに加えて、この曲のもつロマンチックな要素もしなやかに表現されていて、なんだかとても複雑な味わいを持っている。それにしても、これはピアノを弾く者としての感想だけど、グルダの演奏ってほんとにペダルの使い方が自然。決して教科書的な踏み方はしない。常になめらかに一息で聴かせる踏み方をしていて、豊かな響きを残しながら次々とフレーズを繋げて行くが決して音が濁ることがない。彼の映像を見ればペダルがほんとに複雑な細かい動きをしていて驚いたことがあるくらい。彼のロングトーン(ピアノでロングトーンという言葉を使うのはなんか変だけど)の響きの美しさは他のピアニストでは真似できない純度。話が長くなったけど、グルダのベトソナ全集は絶対にオススメ。

◯ポリーニ(88年、DG)

このポリーニの演奏は、巷では大変な知名度だそうで、よく名盤本などでも上位に上がる演奏。ぼく自身はボリーニの演奏は必ずしも好きな演奏ばかりではないのだけれど、このテンペストは比較的好きな方。グルダを聞いた後に聞くと、ちょっと"ゆるふわ"だなーって思っちゃうけど、これはこれでロマンチックでアリ。3楽章の「ふぁそふぁみ、ふぁそふぁみ、ふぁそふぁみ」のトリルの入れ方がかっこいいー。全体的にもテクニカルで明晰。聞いた後にすっきりとした快感を残す。

◯バックハウス(59-69年、Dec)

やっぱバックハウスは存在感ある。ザ・ベテランといった感じの貫禄のある、無骨で、ま言って見れば「いぶし銀」的な(笑)渋い演奏ではあるけれども、そこからにじみ出るのはやはりロマン派の音楽。ゆっくりとしたテンポも感興のおもむくままに揺れ、その感情の揺らぎから生まれる自由なルバートによって一つ一つ紡ぎ出される雄弁な語り口は、大家の至芸といった感じだ。こんな味わい深くコクがある大人テイストのテンペストはほかにはないと思う。


CD NAME ZUMI

TEXTZUMI

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