2016年1月30日土曜日

F.メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番



◎スークトリオ(64,66年,Sup)

「めんとり」ことメンデルスゾーンのピアノトリオで、いわばピアノトリオの代表格のようなものだと勝手に思っている。やっぱ冒頭の陰影に富む旋律がたまらく好き。その陰影に富んだ最たる演奏は大穴盤に譲るとして(笑)、本命盤はスカッと心地よい室内楽をする喜びに溢れた名演をご紹介。はい、スークトリオですね。やっぱりこのトリオ、うまいです。室内楽の演奏には大きく分けて、各ソリストが火花を散らして個性を主張するタイプと、室内楽的な調和を優先しまとめていくタイプと二種類あるかなと思う(ま、この話自体はよく言われることではあるが)。個人的な好みは俄然前者なんだけど、スークトリオに関してはどちらかと言えば後者寄りの演奏が多いのに、なぜかしっくりとくるのである。まずもって、冒頭のチェロの雄弁な歌い回しが快感。パネンカのピアノはややもするとパラパラ不安定系になるが、プレヴィンやプレスラーほどは気にならない笑。そしてスークのバイオリンがこれまた豊かな音色でもってスッキリくっきり響くのが心地よい。若干ポルタメントも入ってロマンチックさも忘れない。4楽章の序奏が他の演奏に比べてゆったり入る解釈が特徴的。

◯スターン、ローズ、イストミン(66年,SC)

次はスターンによるこれまた有名な録音。どちらかと言えばめんとりというとこっちを挙げる人が多いんじゃないかな。で、スターンのバイオリンなんだけど、こちらはまあまあ笑。思ったほどではない。しかし、当盤はイストミンのピアノが秀逸!!イストミンというピアニスト、このスターンの室内楽シリーズでしか知らないんだけど、もっと有名になっていいんじゃないかな(他にも録音あるよっていう人は教えて下さいな)。細やかなニュアンスの表情付けがうまいし、さりげないルバートもセンスが良い。めんとりのピアノってやたら技巧的で重音が多くて弾くのが面倒だけど、こういうさりげない部分の音色で差がつくと思うなあ。ただ本盤はスターンという大物バイオリニストが率いてるにもかかわらず火花が散る前者タイプの演奏ではない。やはり従者がソリストとしての活動を華々しくしていた人ではないからだろうか。

▲カザルストリオ(27年,EMI)

ということで、最後は3人ともソリストとして華々しく活躍して、個性をそれぞれが主張した前者タイプの演奏をご紹介。言わずと知れたカザルストリオです。この時代のもう一つのこのタイプの演奏に100$トリオの演奏もあるけど、こっちはハイフェッツのバイオリンが鋭利すぎてあまり好きじゃないんだなあ。こちらのカザルストリオは、ティボーのハイセンスなバイオリンとコルトーの詩的なピアノが印象的で、これぞロマン派といった趣の演奏。ティボー一流のポルタメントやルバート、間の取り方は健在で、あの極細の線による洒落たバイオリンは何度聞いてもニンマリしてしまうし、メンデルスゾーンとの相性は抜群!意図的に飛び出して入ってみたり、意図「せず」して縦の線が崩れたり、コルトーが弾き間違えたり、いろいろやってる演奏だけど、この即興的な要素が現代の演奏にはない室内楽の本当の楽しみなのかもしれないとこっそり思っている。


CD NAME ZUMI

TEXTZUMI

W.A.モーツァルト:レクイエム


てもさん:

◎ベーム指揮ウィーンpo、71年(DG)

このジャンルについては、右側にいらっしゃるずみさんの方が圧倒的に詳しいので、ご覧になるときは右側の方を読んでいただきたい笑。私からは3点。一つ目はベーム。ベームという指揮者は実はちょっと苦手な部類で、あの明るめのサウンドがどうも受け付けないのだけども、このモツレクに関しては有無を言わせない名演だと思いますね。合唱との一体感もあるし、とてもシンフォニック。あと、合唱が上手い。ヤンカラ先生のも好きだけど、ウィーン学友協会合唱団はやっぱり素人集団ということもあり、イマイチ(音程ぶっちゃけかなり悪い)。そこにきて、ベーム盤の合唱はウィーン国立歌劇場の合唱団ということもあり上手い。ゆっくり目のテンポでの演奏はいささか古風かもしれないが、これは今でも不動のモツレク決定盤に君臨する一枚だと思う。

◯カラヤン指揮ウィーンpo、86年(DG)

次点はカラヤン。やっぱりオケが立派で、オケを聞きたいならカラヤンである。このVPO盤は75年のBPO盤よりオケが全面に出ていて、まあどちらかといえば合唱よりオケメインの録音になっている。全体としては重厚で劇的でかつ美しい演奏で、カラヤンの美質がいい形で出たといえる名演だと思う。75年BPOもいいのだけども、ちょっと完成度が落ちるかなーという印象。しかしこのドミネイエズは好きだなあ。オルガンが要所要所聞こえていて効果的〜。

▲ワルター指揮ウィーンpo、37年(EMI)

また古臭いのを持ち出してきた笑。呆れ返っている人の顔が浮かぶわ^^ゞ(そもそもこのサイト自体訪問者がどれだけいるかは疑わしいところではあるが。。) はっきり言って現代におけるモーツァルトの研究および最近の演奏のトレンドからすると、時代逆行もいいとこの大穴盤である。しかし、研究は研究なのであって、それ自体学術的には大いに結構なのだけども、別にモーツァルトが生きてた時代の演奏様式とかどうでもよくね?ってのがぼくの本音。別に音大で音楽学を研究しているわけでもないんだし笑。それに、ワルターのこの演奏、現代の録音よりざっと80年くらいモーツァルトが生きていた時代に近い演奏なんだから、その演奏様式は普通に考えればモーツァルトが生きていた時代のそれに近いとも考えられるのである(うわー、反論されそう笑)。とまあ、言いたい放題の珍論をでっちあげてみたところで、演奏を紹介。一言で言えば、ひたすらロマンチック。VPOのとろけるような弦楽器の音色にうっとりするし、ゆったりとしたテンポでまろやかにオケと合唱が混ざる味わい深さは格別。後年の56年VPOライヴ盤よりこちらの方が、VPOの官能的な弦が楽しめるのでオススメ。

ずみさん:


ラルフ・オットー指揮 ラルパ・フェスタンテ・ミュンヘン マインツ・バッハ合唱団、05年(NCA)

いきなりのモツレクで驚いている。僕の人生でも最も多くの時間が費やされた曲だとおもう。この曲に限っては、どの録音が一番、ということなく、紹介していきたい。 で、いきなりのキワモノで申し訳ないんだけれど(笑)、レヴィン版楽譜による演奏を紹介したい。
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チェリビダッケ指揮 ミュンヘン・フィル管弦楽団/合唱団 95年(EMI)

僕はチェリビダッケが好きだが、これはその中でもすごい。チェリビダッケは、大の録音嫌いで知られているが、それでも録音が残っていて、このように珠玉の演奏を聞けることに、本当に感謝したい。 ジュスマイヤー版ではあるが、とにかくテンポが他とは違う。このテンポは、Lacrimosaに向けた伏線だと僕は思う。ここですべてが開放される。心が動く。ここまで感動できる演奏は他にないのではないか、と思う。一番の愛聴盤。ところで、管楽器や声のひとは相当苦しいと思う。よくがんばったw ちなみに、他の人達による、これより遅い録音もあるけれど、それは音楽として成立していなかったように思う。

アーノンクール指揮 ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス ウィーン国立歌劇場合唱団 03年(RCA)

バイヤー版。Rex Tremendaeの合いの手がないところが最初の違和感になるとおもう。アーノンクールにしては大人しい演奏で、モツレク入門としてはありじゃないかな。洗練された演奏。高校生の時にハマっていた。

シュペリング指揮 ノイエ・オーケストラ コーラス・ムジクス・ケルン

最後に紹介したいのは、シュペリングのもの。 これは、ジュスマイヤー版であまり面白みはないのだが、モーツァルトの楽譜断片が手を加えられずにそのまま収録されているところが新しい。補筆版は所詮編曲なので、なにが元になっているのか、を知る上で大変おもしろい。他にも鈴木、ホグウッド、ヘレヴェッヘ、ノリントン、クリストファーズ、クリスティ、、と紹介したいのはやまほどあるので、機会があればこの曲をもう一回紹介するかもしれないw

2016年1月28日木曜日

P.チャイコフスキー:交響曲第4番

てもさん:

◎カラヤン指揮ベルリンpo、71年(EMI)

チャイコの4番と言えばコレ!ムラヴィンスキーなんてはっきり言って目じゃないです笑。ま、いわゆる爆演てやつですね。この演奏は本当にすごいです。この時期のBPOの金管はシャープで切れ味抜群、かつ豊かな音色で透明感があります。これでこの曲冒頭の金管協奏曲を吹かれたらたまりません。終楽章はひたすら圧倒的な音の洪水が押し寄せてきますし、ティンパニーが荒れ狂っています笑 ついでに一番最後のFの音ではシンバルの追加がされていて迫力満点です。いろいろ小細工してスビトピアノを加えてみたりクレッシェンドを効かせてみたり・・・といった小細工をする指揮者が多いですが(とくにこの曲では!!)、カラヤンはひたすらffです。この安定さがたまりません(賛否両論なのは百も承知しておりますが苦笑)。かと思うと、弦楽器を聞かせるところは思う存分歌わせますし、この人の演出には本当に脱帽します。録音はEMIの劣悪録音ということで有名ですが、1〜3楽章はさほど気になりません。4楽章の大太鼓が入るところではかなり音割れしちゃいますので、これはすごく残念ですがね。氷の上を走る重戦車とはよく言ったものだと思わせられる一枚。

◯マゼール指揮ウィーンpo、64年(Dec)

こちらはもっとも硬派な部類の演奏をご紹介。若き日のマゼール=VPOです。この時期のVPOの響き、なかなか好きです(ゾフィエンザールの音響の所為もあるのだろうか)。この時期のVPOって名盤が多いですよね。ケルテスの新世界然り、カラヤンのドボ8、ホルストの惑星然り、あと同じくマゼールのシベリウスとか。そのマゼールが振ったチャイコなのできかなくては!と5〜6年前から思っていたのですが、なかなか買うチャンスに恵まれず、ついこの前amazonで見かけ衝動買いしました笑。後年のマゼールは嫌いだけど、この時期のはとっても面白い。なんで面白いのかはわからないけど、ピアニストで言えばグルダみたいな笑(全然たとえわかんないですよねー)。挑戦的で硬派な演奏、なのに綺麗でよくまとまってて安定してる。そんな感じです。テンポは先のカラヤン盤に比べて少し遅めで、若干ダレるところもありますが(終楽章コーダのシンバル、下手!!死刑レベル笑)、終始ザクザクとした荒削りの弦楽器の音で耳に心地よい一枚です。しかしグルダとマゼール、個人的にはなんか似てるなーという印象。そういえば、R=シュトラウスの町人貴族でこの夢のコンビが共演してるのを思いだしました。が、なかなかそこまで手が回らない・・・いつか聞きたい。

▲クレンペラー指揮フィルハーモニアo、63年(EMI)

大穴盤にはふさわしい珍盤。木管のあたたかい響きと低弦の重厚な響きがブレンドした妙な響きが終始続く。クレンペラーファンならよくご存知だとは思うが、この彼一流の響きにチャイコフスキーが意外にマッチするから面白い。シューマンの4番、幻想交響曲、R=シュトラウスのティル、マーラーの4番や夜の歌などちょっとファンタジックな曲(ティルはちょっと違うケド)にもこのサウンドはよく合うのだから、ロマンチックな曲想のチャイヨンにはマッチして当然と言えば当然なのだが。テンポは例によってめちゃめちゃ遅いが、ダレることはない(←ここら辺がすごいなーと思うところ)。重厚さとファンタジーが共存する類稀な名演で、ロシア的な要素は皆無(笑)。無国籍の完全にクレンペラーの音楽になっている。