2016年5月8日日曜日

スクリャービン:2つの小品 作品57 「欲望」「舞い踊る愛撫」


てもさん:

◎ネイガウス(スタニスラフ)(79年、デンオン)

スクリャービンの後期への入り口の作品。タイトルもなんとも刺激的(笑)なものだが、音楽もそれと同じくらい美しく、かつ後期作品にしてはかなり親しみやすいもの。調性は曖昧になってきているがまだはっきりしている。不協和音の美しさを堪能できる名曲(?)である。とはいえ普通に聞いてもあまり耳に残る曲では正直ない。しかし、ここに挙げたスタニスラフ・ネイガウスの録音を聞いてそれは一変した。彼の演奏、一部ライヴではかなり雑なものもあってこれまではよくスクリャービンを取り上げているが二流の感が否めないピアニストという位置付けだった(ネイガウスファンの方、失敬失敬^^ゞ)が、こういった小品での彼の解釈は後期スクリャービンの神秘主義への本質を見事についたもので、かつ一般人にもわかりやすく表現されていて非常に感銘を受けた。冒頭からさりげなく入るが、光沢感のあるタッチと絶妙な音量コントロールでスクリャービンの恍惚とした世界を表現している手腕は驚きである。「欲望」における半音でぶつかる和音の響きの美しさ、ためらいがちに昇る上昇音型の危うさ、「舞い踊る愛撫」での下降音型の和音進行をはっきり出すことで非常に綺麗な半音階の進行を浮かびあがらせ、その退廃的な美を表現しているあたり、ネイガウスならではである。このほか録音としてはゲンリヒ・ネイガウス(スタニスラフの父)、大御所ソフロニツキー(恐らくop57-1のみ)、グールド、ポンティ、オールソン、オグドン、カツァリス(Op.57-2のみ)などがあるが、出来はイマイチピンとこない。みんな響きが現実的すぎるのである。この曲はもっと夢見心地なぼんやりした輪郭の音色で弾かないと!!笑 ゲンリヒ・ネイガウスに関しては手許のCDの音質があまりに悪く(ノイズリダクションをかけすぎている)あまりちゃんと聞いていないためこちらは国内盤再発売を強く希望している。スタニスラフはこの曲を気に入っていたようで、最後のリサイタルでもOp.57-2をアンコールで弾いている(こちらもデンオンからCDが出ている)。やはり本人が気に入っていただけあってたった1分ちょっとの曲であるが味わい深いものがある。
<追記>
作品57-1「欲望」にはスクリャービン本人による演奏も残っている。ピアノロールでの記録のため、音色感や強弱のコントロールについては再生するピアノに依存し再生速度も収録環境によって異なるため(実際現在2種類の復刻CDが出ているが両者の印象は同一演奏か疑ってしまうほど異なっている。ただしよくよく聞けば同一の演奏である)あまり参考にならないのだが、間の取り方やフレーズの取り方などは作曲者本人の解釈として参考になる。ただ、このスクリャービンさん、自分の作った曲なのに楽譜通りに弾いていません!このOp57-1にしても9小節以降かなり音を変えて弾いています。ただ、楽譜よりむしろこっちのほうがいいかもってちょっと思いましたけど笑。個人的にはやはりネイガウスのロマン性には負けるかなーと思うけど、作曲者本人は楽譜の改変から見ると(たとえば9小節目は左手を1オクターブ下げて弾いている)割とドラマチックに弾きたいと思っていた気がする。そう考えるとネイガウスのは、ちょっと本人の意図からは外れた演奏ということになるが・・・。
ずみさん:

▲CDタイトル

0 件のコメント:

コメントを投稿